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2009年5月25日 (月)

旧新撰組・結城無二三さんと勝先生 ③

結城無二三さん、第三夜。

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勝先生は結城さんに酒とご馳走2人前、酒の肴2品をどんと振る舞った。
結城さんはあっという間に2膳のご馳走を平らげ、「もういい加減にしねえか」と先生が止めるのも聞かずにヤケクソになって酒を5本ほど飲み倒した。
御礼を言ってさっさと暇乞いをしようとしたら、勝さんは左手で顎を撫でながらニヤニヤしている。
「なあ、結城さんよう、おいらンとこに来たのは金がなくなったからだろ。え。」
図星を指された結城さん、少し酔いが覚めたらしい。
「はぁ・・・然様でございます。実はその用向きにて参上致しましたが只今のお叱りで御無心申すのもイヤになってしまいましたもので。」
と肩を落とす。
先生は「こいつを持ってお行き。」と、いつ用意したのか金子の入った封筒を差し出した。ずっしりと重かった。結城さんは辞退したが、先生が聞き入れる筈もない。つべこべ言わずに戴いて帰ることにした。
先生は結城さんを玄関の外まで送ってくれた。結城さんが一礼して門のほうへ向かおうとすると、先生が呼び止める。
「おい、ちょっと待ちな。」
結城さんが振り返る。先生は自分の足下を指さして言った。
「こっちへおいで。」
結城さん、黙って引き返す。眼光鋭い二重瞼の目が、結城さんを見上げている。
「お前さん、おいらの言った意味が解ったかい。」
「は・・・はい。」
「あのな結城さん、安部が心の裏を行くんだ。解るかえ。」
「はい先生・・・。」
結城さんは戸惑いながらも頷くしかなかった。先生は元剣術家らしい指の長い節くれ立った手で結城さんの肩を叩いた。
「そうかい。解りゃあそれでいいのさ。」
先生はもう何も言わなかった。

酒が適度に回ったからなのか、久々にたらふく食ったからなのか、或いは別の理由によるものなのか、先刻の腹立たしさや情けなさは何時の間にやら消えていた。宿に戻った結城さんが戴いた封筒を開けてみると、そこには二十両ほど入っていた。
「安部さまの心の裏を行けとは・・・いったい俺はどうしたらいいのだろう?」
結城さんは考えた。考えて、考えて、考えているうちに、東の空が明るくなってきた。
「よし、決めた。いっちょやってみるか。」
結城さんは明け六ツの鐘を待って宿を出た。古道具屋を何件か回ってから、単身例の屯集所に向かった。表門の前まで来ると浪人風の男がいた。門番であろうその男に、結城さんは声をかけた。
「自分は沼津勤番組の結城無二三と申す者だが、福井どのと早川どのはおられるか。」
男は訝しげな目で結城さんを睨め回したが、「暫し待たれよ」と言って屋敷の中へ消えた。
暫くして、結城さんは屋敷の中の一室に通された。間もなく福井さんと早川さんが結城さんの前に現れた。久々に近くで見る二人は頬が痩け、着ているものは随分と草臥れて袖口や裾がほつれていた。お互いに侘びしい姿になったな、と結城さんは思った。
「これはこれは結城殿。随分と窶れられたようですな。」
「それは足下らも同じでございましょう。」
罷り間違えば自分が斬り殺されるかもしれない。そう思いながらも、結城さんは正直に事情を話した。ふたりは、いちいち頷きながら話を聞いてくれた。そればかりでなく、早川さんはあっさりと腰に差していた大小を返してくれた。結城さんは「代わりに」と言って先生から戴いた金を使って買った中古の刀を早川さんに渡すと、その日のうちに江戸を後にした。
沼津に帰ると、結城さんは早速安部さんを訪れた。そして早川さんから受け取った刀を差し出し、こう報告した。
「早川は既に死にました故、この刀のみ同氏友人から受け取って参りました。」
「うむ、然様であったか。ご苦労。」
安部さんが至極満足そうな顔をしたのを見て、結城さんは思った。
「そうか。先生は、無闇に争いごとを起こして命を無駄にするな、安部さまの顔をつぶすな、と言いたかったんだな。」

明治3年の暮れ。
勝先生が静岡に戻ったと聞いて、結城さんは直ぐに会いに出掛けた。すると勝さん、今度は穏やかな態度で結城さんを迎えてくれる。
「なぁ、去年のことは解ったかい。」
結城さんは事の顛末をお話しし、あのとき誰の血も流さず事が円満に収まったのは先生のお陰です、と深々と頭を下げた。先生はにっこりと頷いた。
「ちげえねえ。お前さんの命はおいらがくれてやったようなもんさ。あのとき無闇なことをやらかしてみろ。お前さんの身体は今頃土の下で腐っちまってたろうよ。」

* * *

以上、旧新撰組(仮)結城無二三さんの思い出話でした。
「・・・然様、先生のおっしゃった通りです。私の命はあのときに先生に戴いたようなものでしてね。」
結城さんは耶蘇教徒となった後々までそう語っていたそうです。

で、余談。
新撰組、ここでは随分とボロクソな言われようですが、勝先生は隊士たちにお小遣いをあげたり、いろいろと面倒をみてやったりしていたそうです。それに安部正人さん(若干眉唾かもしれんけど。笑)によると、旧幕軍の武闘派連中に関しては、明治の時事談話の中でこんなことも言っているようなんだ。
「志の殊勝にして精神の確固たる点に至っては、中々幕軍と雖も立派なもの」。
また戊申の役の際に命を捨てて戦った連中は如何にも頑迷だが骨のある連中だ、自ら行動した点は立派であるとも言っているそうです。それに対して何十年も経ってから、自分が関わりもしなかった癖に勝麟は腰抜けだの言っている連中については鼻で笑って放置である。
バカだろうが腰抜けだろうが、自分の頭で考え行動した者の言動だから重みがある。舌先三寸の輩なんざ打っちゃっておけば足りる。敗者だろうが勝者だろうが、幕軍だろうが西軍だろうが、政府の高官だろうが在野の実力者だろうが、それは同じである。勝さんは、そう思っていたんじゃないでしょうかね。

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コメント

これもいいお話でした。
麟さんらしい心温まるお話でした。

2012年の大河ドラマは是非「勝海舟!」でお願いしたいですね。小モノの主人公ばかりじゃなくて... ホンモノの大物が見たい今日この頃です。

投稿: 旅の武芸者 | 2009年9月 5日 (土) 11時13分

旅の武芸者さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。m(_ _)m
そして、冗長極まりない長文にお付き合い下さいまして、どうもありがとうございました! 楽しんでいただけたようで、光栄です。

麟さんは乱暴でぶっきらぼうですけど、基本後輩には優しいんですよね。真っ直ぐぶつかっていけば真っ直ぐ受け止めてくれますし、結城さんの例が典型だとは思いますが、自分の頭で考えて結論を出せるように導いてくれますし。そこが教育者・勝先生のいいところでしょうか。

大河ドラマ「勝海舟!」、いいですねぇ^^
ぜひタイトルには「!」を付けて、かっ飛ばしてる感じを出してもらいましょう。
もう30年以上も前に勝麟さんが主人公の大河は製作されているそうなんですが、原作が江戸開城までの作品なんだそうで。今度やるときは天才政治家の明治以降の苦悩をきちんと描いてほしいです。

ただ、今のNHKにそれだけの気概があるのだろうか、ということが気になってしまいますね(笑)

投稿: りんぞぅ | 2009年9月 7日 (月) 22時49分

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