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2010年10月 7日 (木)

村上元三「勝海舟」(人物文庫、学陽書房)

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むかーし昔。
「長七郎江戸日記」って時代劇があったのを記憶しているのだが、あまりよく覚えていない。
派手な着物を着た偉そうな侍が「まよわずじごくにおちるがよい」とか何とか言って、悪者どもをバッサバッサと叩っ斬っていく話だったような記憶もあるんだが、それすらよく覚えていない。
 
ずっと後に知ったことだが、この時代劇の原作者が戦後大衆文学の旗手である村上元三という先生だった。
で、今回読んだのがこの先生の歴史長編(つっても、文庫本で550頁弱だけどね)というわけなのだ。 
 
 
つーか、また勝海舟ですよ。また。
(好い加減飽きねえのか、自分。)
 

 
と思って読み始めたのだが、この話の主人公は教科書の端っこ小さく載っている「江戸開城」の勝海舟ではないらしい。
そして私が私淑(?)している突っ込みどころ満載の師匠・勝先生でもないようだ。
ここで活躍するのは、あくまで痛快時代小説のヒーロー・勝麟太郎である。
 
■幕末ヒーロー物。
主人公は身体は小さいが剣も喧嘩も滅法強く、色が白くて端整な顔立ちの「いい男」。頭が良く、気っ風がよく、真っ直ぐな人柄で、おまけに頑張り屋。江戸人らしく短気なところもあり、ときどき癇癪も起こすが、冷静に的確な判断を下して敏速に行動するデキル男でもある。
少年時代・青年時代はまるで模範少年・模範青年だった。貧乏だったがそれ自体を恥じることもなく、それ自体を自分の苦しさの言い訳にすることもなく、真っ直ぐに育った。
 
とまあ、正直「おいおい・・」と突っ込みたくなるほどのヒーローっぷりなのだが、あくまで小説であり評伝や評論ではないから、主人公が多少格好良すぎるのは問題はない。他所で大恋愛をしたり、女中さん全員をお手つきにしたり、素っ裸で転がっていたり、将軍家の未亡人と夜中までデートしてたり、船に酔っちゃったりもしないが、全然問題ナシである。
村上先生が最後の数頁を除いて主人公の名を「麟太郎」と表記している点や、その最後の数頁で長い長い明治の活躍を纏めてしまい、話の大部分を16歳から46歳までの活躍を描くために使ってしまっているという点などを考慮しても、この小説が勝海舟という男の人間性や思想或いはそのバックグラウンドを掘り下げたり、作者の政治思想や歴史観を色濃く反映したりする作品というよりも、硬直した幕府の組織と動乱の時代の中で異彩を放ちながら強く正しく生きてゆく主人公の颯爽とした姿を描くことにエネルギーを注いだ作品ではないかと思うんだが、どうなんでしょう。広い視野を持ち、見聞きしたものや出会った人たちから沢山のことを吸収し、そこから学び、学んだことを勇気を持って実践し、困難を乗り越え、自身が得た経験や知識をまた沢山の人たちのために役立ててゆこうとする、或る意味異色だが或る意味古典的なヒーローの姿をザクッと明快に描き出すという点ではなかなか上手くできた小説だとも思うんだが、どうなんでしょう。
まぁ、いずれにしても分かり易く健康的な作品であることは間違いなさそうだ。
 
■大転換の時代の政治家。
この本が出版されたのは2004年。
村上先生がなぜ幕末と勝麟太郎を題材にしたのか、理解できるような気がするよ。
ヒーローのモデルが経済を数字ではなく政治や外交の問題と絡めてしっかり考え、国家の将来を第三者的な眼で静かに見据え、他人に何を言われようと現在できることを飄々と(!)やりぬいてきた「政治家」だからかな。村上先生が経済の話で話を締めくくっている点は「解説」でも注目していることだけど、作者が大転換期に生きる現代人にこの作品を読んでほしいと思った理由もその辺にあるんだろう。今となっては確かめることはできないが。(村上先生は2006年に泉下の客に。合掌)

情熱だけの政治家は要らない。
大人ならば一緒に泣いてくれる人間が優しいわけじゃないことくらい知ってる筈だ。なのに分かりやすい情熱を政治家に求める人が案外多いのはどういうわけだろうね。
 
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追記:
そういえば最近、古本屋から子母澤寛先生の「勝海舟 (一)」を連れ帰ってしまった。ちょっと読んでみたんだが、これが滅法面白い。生の江戸弁を聞いて育った人の作品だけあって、台詞回しが生き生きとしてるし、人物の描写が濃やかで臨場感たっぷりだ。同じ「勝さんち」の話を扱った若干娯楽色の強い後の作品とは違った重厚感が却って新鮮。
本が古すぎるせいか105円だったし全部揃えると6巻もあって読み切れる自信がなかったから「とりあえず古本なら」と思って勢いで買ってみたんだが。2巻が欲しくなるのが恐いんで、暫く封印しておこう。

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